「そろそろ会社の業績も安定してきたし、自分の退職金のことも考えたいな」
「でも、退職金ってどうやって準備するのが一番おトクなんだろう?」
年商1億円前後の規模になってくると、社長の頭をよぎるのが「役員退職金」の文字です。日々の資金繰りや売上アップに奔走していると、ついつい後回しにしてしまいがちですが、実はこれ、中小企業の社長に許された最大の節税ルールと言っても過言ではありません。
準備の方法を間違えると、いざ引退するときに「思ったより手元に残らない…」「会社のキャッシュが足りなくて払えない…」なんて大失敗に陥ることも。
この記事では、難しい法律や専門用語は一切抜きで、年商1億円の社長が知っておくべき役員退職金の基本と、「あなたに最適な準備ロードマップ」を分かりやすく解説します!
そもそも「役員退職金」が最強の節税と言われる理由
結論からお伝えします。役員退職金が最強と言われる理由は、「会社」と「社長個人」の両方で、信じられないほど税金が優遇されているからです。
毎月の役員報酬(給料)を増やすと、社長個人の所得税や住民税、さらに社会保険料まで跳ね上がってしまいますよね。しかし、同じお金を「退職金」として受け取るだけで、税金のルールがガラリと変わります。
1分でわかる!退職金にかかる税金の仕組み
退職金にかかる税金は、次の計算式で決まります。
課税される金額 = (受け取った退職金 – 退職所得控除) × 1/2
注目すべきは、最後の「×1/2(半分にする)」というルールです。給料と同じ金額を受け取っても、税金がかかる対象の金額が最初から半分になるため、手元に残るキャッシュが圧倒的に多くなります。
さらに、勤続年数に応じて「退職所得控除」という非課税枠がもらえます。
- 勤続20年以下
1年につき 40万円 - 勤続20年超え
20年を超えた分は1年につき 70万円
【例】社長を25年務めて引退した場合の非課税枠
- 20年分 20年 × 40万円 = 800万円
- 残り5年分 5年 × 70万円 = 350万円
- 合計 1,150万円までは、なんと無税で受け取れます!
会社側にとっても、支払った退職金は基本的に全額が経費(損金)になります。会社は法人税を減らせて、社長は個人の税金を劇的に安くできる。これが、役員退職金が「究極の出口戦略」と呼ばれる理由です。
【社長のタイプ別】どれを選べば正解?退職金の積立ルート
「メリットは分かったけれど、どうやってお金を貯めればいいの?」
巷にはたくさんの積立方法があふれていて迷いますよね。ここでは、年商1億規模の社長におすすめの手法を、タイプ別に3つに厳選して紹介します。
【超安定派】小規模企業共済
国の機関が運営する、経営者のための純粋な退職金積立制度です。
- 特徴
毎月の掛金(最大7万円)が、全額社長個人の所得税・住民税の控除になります。 - メリット
貯めながらリアルタイムで個人の税金が安くなる。 - こんな社長におすすめ
「まずは手堅く、自分個人のポケットの税金を減らしながら老後資金を作りたい」という社長。
【攻守のバランス派】経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
本来は取引先の倒産に備える制度ですが、実質的に「会社の退職金貯金箱」として広く使われています。
- 特徴
年間最大240万円(総額800万円まで)を積み立てられ、全額が会社の経費になります。 - メリット
40ヶ月以上納めれば、解約時に元本が100%戻ってきます。 - こんな社長におすすめ
「いま会社の利益が出ているので、法人税を抑えつつ、いつでも動かせる会社のプール金(退職金原資)を作りたい」という社長。
【資産運用・もしもに備える派】生命保険(法人保険)や新NISA
会社の福利厚生や保障を兼ねたプラン、または個人の資産運用を組み合わせる方法です。
- 特徴
万が一の死亡保障をつけつつ解約返戻金を退職金に充てる、または役員報酬を原資に個人で新NISA等を活用する。 - メリット
万が一の事態が起きても、遺族に事業承継や生活の資金を残せる。 - こんな社長におすすめ
「自分が動けなくなったときの会社のリスクヘッジも同時に行いたい」という社長。
3つの方法の比較表
社長の状況に合わせて組み合わせるのがベストです。以下の表で特徴を比較してみましょう。
| 準備方法 | 積立の上限 | 税金上のメリット | メインの目的 |
| ① 小規模企業共済 | 月最大7万円(年84万円) | 個人の所得控除(全額) | 社長個人の確実な老後資金 |
| ② 経営セーフティ共済 | 年最大240万円(枠800万円) | 会社の経費(全額損金) | 法人税対策 + 会社の資金保留 |
| ③ 生命保険など | 契約内容による | 一部経費、または保障重視 | 万が一の保障 + 退職金準備 |
実務で絶対にやってはいけない!3つの注意点
役員退職金は非常に強力なメリットがある反面、税務署のチェックも厳しく入ります。以下の3点だけは絶対に守ってください。
「退職金規程」を今すぐ作っておく
規程(ルール)がないのに、引退する時にいきなり「じゃあ3,000万円ね」と支給しても、税務署から「根拠がない」と経費として認められないリスクがあります。「勤続年数 × 最終役員報酬 × 功績倍率」といった一般的な支給基準を、あらかじめ社内規程として明文化しておきましょう。
世間相場からズレた「もらいすぎ」に注意する
「利益がいっぱい出たから1億円もらう!」というのは原則NGです。会社の規模、勤続年数、同業他社の水準と比較して「不相当に高額」と判断された部分は、経費として認められません。一般的な中小企業の場合、功績倍率は「2.0倍〜3.0倍」の範囲で設定するのが安全です。
「名ばかり退職」はNG
「社長の肩書を外して会長になったから、一度退職金を払おう。でも実質的な経営権はそのまま」というのは、税務署から「本当は退職していない」とみなされます。役員退職金を支給する場合、常勤から非常勤になり、給与も激減するなど、「実態として経営から退いたこと」の証明が必要です。
税理士からのワンポイントアドバイス
出口(退職する年)の「会社の赤字」を恐れるな!
よく社長から「退職金を数千万円も払ったら、その年の決算が歴史的な大赤字になって銀行の評価が落ちませんか?」と相談されます。
結論、全く問題ありません。 銀行も「社長の退職金による一時的な赤字」であることは決算書を見れば一発で分かります。むしろ、退職金を支払う年に、先ほど紹介した「経営セーフティ共済」の解約手当金(雑収入)や、保険の解約返戻金をぶつけることで、【退職金の経費】と【解約コントロールした収入】を相殺(相殺しきれない分は赤字にして法人税を還付)させるのが、我々税理士が現場で使う王道のテクニックです。
まとめ:あなたの最適なロードマップ
年商1億円規模の社長が目指すべき、退職金準備の黄金ルートは以下の通りです。
- まずは個人の節税になる「小規模企業共済」を月7万円でスタート。
- 会社の利益がガッツリ出始めたら、年間240万円の「経営セーフティ共済」の枠を使い切る。
- さらに余裕があれば、万が一の保障や事業承継を見据えたプランを専門家と設計する。
役員退職金は、早く始めれば始めるほど、会社のキャッシュを傷つけずに大きな資産を築くことができます。
「我が社の場合はいくらまで退職金を出せる?」「具体的な規程はどう作ればいい?」と気になった方は、ぜひ一度、当事務所へお気軽にご相談ください。社長のこれまでの頑張りを、最高の形で未来へ残すお手伝いをいたします。


