近年、世界的な物価高(インフレ)や地政学リスクの高まりを受けて、「金(ゴールド)」への投資が大きな注目を集めています。ニュースやSNSでも「資産の一部を金に換えて防衛しよう!」という声をよく耳にしますよね。
経営者や個人事業主の方から、「先生、やっぱり今のうちに金を買っておいた方がいいですか?」と相談されることが本当に増えました。
しかし、プロの税理士としての私の本音を言えば、個人の金投資は、世間で言われているほど万能ではないし、積極的にはお勧めしません。
なぜ、世間でこれほど人気の金投資に、税理士がストップをかけるのか? そこには、投資信託や株式にはない「特有のデメリット」と、売却時に待ち受ける「税務調査の恐ろしい落とし穴」があるからです。
今回は、綺麗事なしの「業界の裏話」と「税金の実務」を交えながら、税理士が金投資を勧めない本当の理由をわかりやすく解説します。
そもそも金投資とは?「有事の金」が人気の理由
詳細なデメリットに入る前に、なぜこれほど金がもてはやされているのか、その概要を1分でおさらいしておきましょう。
金は、株式や債券とは異なり、それ自体が価値を持つ「実物資産」です。
- インフレに強い
モノの価値が上がり、お金の価値が下がるときに値上がりしやすい。 - 価値がゼロにならない
会社が倒産すれば株券は紙切れ(データ)になりますが、金は地球上に存在する量が限られているため、価値が消滅しません。
そのため、「有事の金」と呼ばれ、世界情勢が不安定になると価格が急騰する傾向があります。ここまでは、確かにある金のメリットです。
税理士が勧めない理由①:富を生み出さない「インカムゲイン・ゼロ」の壁
税理士が金投資を勧めない最大の理由は、金が「利息や配当を一切生まない」からです。
株式を持っていれば配当金が入ります。不動産を持っていれば家賃収入が入ります。銀行にお金を預ければ(微々たるものであっても)利息がつきます。しかし、金はどれだけ長期間保有していても、1グラムの金は1グラムのまま。何も生み出しません。
金の投資で利益を出すには、「買ったときよりも高く売る(キャピタルゲイン)」しか方法がないのです。
資産運用としての効率を比較
| 投資対象 | インカムゲイン(保有中の利益) | キャピタルゲイン(売却益) | 主なリスク |
| 株式・投資信託 | 配当金・分配金あり | 期待できる | 株価下落、元本割れ |
| 不動産 | 家賃収入あり | 期待できる(立地による) | 空室、修繕リスク |
| 金(ゴールド) | なし(0円) | 期待できる(相場次第) | 価格変動、保管コスト |
さらに、現物の金地金(ゴールドバー)を保有する場合、自宅に置くなら「盗難リスク」がつきまといます。これを避けるために銀行の貸金庫や専門業者に預けると、「保有しているだけで手数料(保管料)がかかる」というマイナスの状態になってしまいます。
税理士からのワンポイントアドバイス
金は「資産を増やすための投資」ではなく、あくまで「資産を減らさないための防衛策(保険)」です。これからビジネスを拡大したい経営者や、手元の資金を効率よく増やしたいステップにいる方が、全財産のうち大きな割合を回すべき対象ではありません。
税理士が勧めない理由②:購入・売却時の「目に見えないコスト」
金投資、特に現物の金地金を売り買いする際には、手数料の仕組みをしっかり理解していないと、利益が出たと思っても手元にほとんど残らないケースがあります。
スプレッド(買付価格と売却価格の差)
金には、お店が販売する時の価格(小売価格)と、買い取る時の価格(買取価格)の2つが存在します。この差を「スプレッド」と呼び、実質的な業者の手数料になります。
買った瞬間に、すでに数パーセントのマイナスからスタートすることになるため、短期的な売買には全く向きません。
バーチャージ(少額取引の手数料)
一般的に、500グラム未満の金地金を売買する際には、売買代金とは別に「バーチャージ」と呼ばれる手数料(数千円〜数万円)が1本ごとに請求されます。小口でコツコツ買おうとすると、この手数料だけで大損してしまう仕組みになっているのです。
税理士が勧めない理由③:売却時に待ち受ける「税金の落とし穴」と「税務調査」
多くの人が見落としがちで、かつ税理士として一番警鐘を鳴らしたいのが、「金を売ったときの税金」と「税務調査の厳しさ」です。
金の売却益は「譲渡所得」になる
個人の金投資(現物)を売却して得た利益は、原則として「譲渡所得」として他の所得(給与や事業所得など)と合算して総合課税されます。
株や投資信託の売却益は一律約20%の分離課税ですが、金の場合は「利益が大きくなればなるほど税率が上がる(最大55%)」という累進課税が適用されるケースがあります(※保有期間が5年を超えると税金が半分になる優遇措置はあります)。
「200万円超」の売却は国税庁に一発でバレる
「現金で買い取ってもらえば、国税局にはバレないだろう」もしそう考えているなら、それは大きな間違いです。
平成24年以降、金地金等の売却代金が「1回につき200万円」を超えた場合、買取業者は顧客のマイナンバーや住所・氏名、取引内容を記載した「支払調書」を税務署に提出することが法律で義務付けられています。
つまり、あなたが確定申告をしなくても、税務署は「誰が、いつ、いくらで金を売ったか」をすべて把握しているのです。
税務調査で金地金が狙われる「業界の裏話」
実は、税務調査において「金(ゴールド)」は非常にマークされやすい項目です。
なぜなら、金は匿名性が高いため、「亡くなった親が隠し持っていた金を勝手に売却した(相続税逃れ)」、あるいは「会社の利益を裏金にして金に換えていた(法人税・所得税逃れ)」といった不正に悪用されやすい歴史があるからです。
税務署は、個人の銀行口座の動きを過去数年分にわたって調査できます。ある日突然、口座にまとまった現金が振り込まれていたり、逆に不自然な大口の現金引き出し(金を買った形跡)があったりすると、確実に目をつけられます。確定申告を怠れば、後から重加算税などの重いペナルティが科されることになります。
実務上の注意点:もしどうしても金投資をしたいなら?
ここまでデメリットを強調してきましたが、「それでもインフレ対策として、資産の5〜10%程度はゴールドを持っておきたい」という方もいるでしょう。その場合は、以下のリスクの低い方法を検討してください。
- 「金ETF」や「投資信託(金連動)」を利用する
現物を自宅で保管するリスクがなく、手数料も圧倒的に安いです。また、証券口座内で完結するため、税制も株と同じ分離課税(約20%)が適用され、確定申告の手間や税務調査のリスクを大幅に下げることができます。 - 「純金積立」は手数料を必ずチェックする
毎月少額から自動で買える純金積立は便利ですが、年会費や積立手数料(2〜3%程度)が高い会社が多いです。ネット証券など、できるだけコストの低い窓口を選ぶのが鉄則です。
まとめ:経営者が本当に投資すべき対象とは
今回の内容をまとめます。
- 金は利息や配当を生まないため、資産を「増やす」効率が悪い。
- 現物の売買には、スプレッドや手数料など目に見えないコストが多い。
- 200万円超の売却は支払調書で税務署に筒抜けであり、税務調査で非常に狙われやすい。
「金を買っておけば安心」という世間のブームを鵜呑みにして、現物の金地金に大金を投じるのはリスクが高すぎます。特にビジネスを動かしている経営者や個人事業主の方であれば、金にお金を眠らせるよりも、自身の「事業」への投資や、新NISAなどを活用した「成長する資産(株式・投資信託)」への投資を優先すべきです。
資産防衛や、今後の法人・個人の節税スキームにお悩みの方は、目先の流行に惑わされる前に、ぜひ一度当事務所へご相談ください。あなたのビジネスの状況に合わせた、本当に最適な資産防衛プランをプロの視点からご提案いたします。


