「今期は利益が出そうだから、役員報酬を増やして節税しようかな」「でも、個人の税金や社会保険料が高くなるのも困るし……」
経営者なら一度は頭を悩ませるのが、「法人の利益」と「個人の役員報酬」の配分です。
結論から申し上げます。「法人税を安くすること」だけを目的に役員報酬を決めると、トータルで大損をするリスクがあります。
大切なのは、法人税・所得税・住民税、そして「社会保険料」を合算した「世帯全体の手残り(キャッシュ)」を最大化させる視点です。
本記事では、税理士の視点から、損をしないための役員報酬の決め方と、知っておくべき「バランスの正体」をわかりやすく解説します。
なぜ「役員報酬を上げればいい」わけではないのか?
法人税を減らすために役員報酬を高く設定すれば、確かに会社の利益(課税所得)は減ります。しかし、受け取る経営者個人の側では、以下の負担が急増します。
- 所得税・住民税(累進課税)
個人の所得税は、稼げば稼ぐほど税率が上がる仕組みです。 - 社会保険料
労使折半(会社負担分と個人負担分)を合わせると、報酬の約30%にも達します。
【比較】法人税 vs 所得税
日本の税制では、法人税の実効税率は約30%〜34%程度でほぼ一定です。 一方で、個人の所得税・住民税は最高で55%まで跳ね上がります。
結論
「役員報酬にかかる個人の負担(所得税等+社会保険料)」が「法人の税率(約30%)」を超えてしまうポイントを超えると、会社に利益を残したほうが得になります。
利益と役員報酬の「シミュレーション」
具体的に、利益(役員報酬を引く前の利益)が2,000万円の場合を例に、極端な2パターンで比較してみましょう。※計算を簡略化するため、概算数値で算出しています。
パターンA:役員報酬を「低め(600万円)」に設定
- 会社
利益が1,400万円残る → 法人税等:約380万円 - 個人
役員報酬600万円 → 所得税・住民税・社会保険料:約150万円 - トータルの手残り
約1,470万円
パターンB:役員報酬を「高め(1,500万円)」に設定
- 会社
利益が500万円残る → 法人税等:約110万円 - 個人
役員報酬1,500万円 → 所得税・住民税・社会保険料:約550万円 - トータルの手残り
約1,340万円
結果
このケースでは、パターンA(報酬低め)の方が、世帯全体で約130万円も多くお金が残ります。 役員報酬を上げすぎて「個人の税率」が「法人の税率」を大きく上回ってしまったためです。
「手残りを最大化」する3つの判断基準
ベストなバランスを見極めるには、以下の3つの指標をチェックしてください。
法人実効税率「30%の壁」を意識する
中小法人の場合、年800万円までの利益には軽減税率が適用され、実効税率は約23%〜25%程度です。それを超えると約34%になります。個人の負担率(税+社保)が30%を超えるライン(概ね年収1,000万円〜1,200万円付近)が、ひとつの分岐点となります。
社会保険料の「上限」を活用する
社会保険料(健康保険・厚生年金)には、報酬月額の上限(標準報酬月額の上限)があります。
- 健康保険
月額139万円 - 厚生年金
月額65万円 これを超える報酬を支払っても社会保険料は増えにくくなるため、あえて非常に高い報酬を設定することで、社会保険料の「比率」を下げる戦略もあります。
会社に現金を残すメリットを考慮する
節税ばかりを優先して会社を赤字や利益ゼロにすると、銀行融資の審査で圧倒的に不利になります。 次の投資や不測の事態に備え、法人税を払ってでも会社に「内部留保」として現金を残しておくことは、経営戦略として非常に健全です。
税理士からのワンポイントアドバイス:実務上の注意点
役員報酬を決定・変更する際には、税務署に否認されないための「ルール」を厳守する必要があります。
- 定期同額給与の原則
役員報酬は、期首から3ヶ月以内に決め、1年間ずっと同額でなければなりません。「利益が出そうだから今月から上げよう」という変更は、原則として経費(損金)に認められません。 - 「不当に高額」はNG
同業他社や会社の規模に比べてあまりに高すぎる報酬は、税務調査で「過大役員給与」として否認されるリスクがあります。 - 社宅や旅費規程の活用
「額面の給与」を上げる前に、借上社宅制度や出張旅費規程を整備しましょう。これらは、個人の所得税を増やさずに、会社から個人へ実質的な利益を移転できる(=手残りが増える)最強のツールです。
まとめ:正解は「会社のフェーズ」で変わる
法人の利益と役員報酬のバランスに「唯一絶対の正解」はありません。
- 創業期
役員報酬を抑え、会社にキャッシュを残して信用力を高める。 - 安定期
節税効率の良いライン(年収800万〜1,200万円程度)で報酬を設定。 - 資産形成期
退職金や社宅をフル活用し、個人の資産を増やす。
目先の「法人税を減らしたい」という感情だけで判断せず、「会社+自分+家族」のトータルでいくら残るかを毎期シミュレーションすることが重要です。
「うちの会社の場合、いくらがベストなのか計算してほしい」 「社会保険料を抑えつつ、手残りを増やすスキームを構築したい」そんな悩みをお持ちの経営者様は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
貴社の状況に合わせた「黄金バランス」を、具体的な数字でご提案いたします。


