「先生、新NISAってやっぱりやった方がいいんですか? 何を買えば一番儲かりますかね?」
近頃、顧問先の社長から毎日のようにこのような質問をいただきます。巷では「オルカン(全世界株)」や「S&P500」といったキーワードが飛び交い、新NISAをやらないと損をするかのような風潮すらあります。
しかし、数多くの企業財務と社長個人の懐事情を見てきた税理士としての結論をぶっちゃけます。
「社長、新NISAで年利5%を必死に追いかける前に、もっと確実に手残りを増やす方法が目の前にありますよ」
今回は、ポジショントーク一切なし。投資信託の銘柄選びよりも遥かに重要である、「経営者だからこそできる、最も打率の高い資産形成の優先順位(ロードマップ)」を公開します。
なぜ経営者が「新NISAの銘柄選び」から始めると失敗するのか?
サラリーマンであれば、新NISAは最強の資産形成ツールです。なぜなら、彼らには「会社の財務をコントロールする権限」も「税金をコントロールする権限」もないからです。
しかし、社長であるあなたは違います。
サラリーマンと経営者の「資産形成」の決定的な違い
- サラリーマン
給与(課税後)の残りを新NISAに回すしか選択肢がない。 - 経営者
「法人税」「個人の所得税・住民税」「社会保険料」のバランスを自分でコントロールし、投資に回す前段階のキャッシュ(元手)を最大化できる。
よくある失敗が、会社の役員報酬を高く設定して高い所得税・社会保険料を支払った後の「残りかす」で新NISAの積立を行うパターンです。
どんなに優秀な投資信託でも、年利5%〜7%程度(しかも元本割れリスクあり)です。一方で、税金や社会保険料の最適化は、実行した瞬間に「確実な利回り」となって手元に返ってきます。 どちらを先にやるべきかは一目瞭然です。
【結論】税理士が裏で教えている「経営者の資産形成ロードマップ」
経営者が目指すべき、最も効率的な資産形成の順番は以下のステップです。巷でよく言われる「小規模企業共済」は、資金がロックされるデメリットを考慮し、あえて優先順位を下げたロードマップにしています。
【ステップ1】役員報酬の最適化(税・社会保険料のミニマム化)
【ステップ2】「法人」の経費や制度を活用した資産防衛(経営セーフティ共済など)
【ステップ3】「個人」の余剰資金で新NISA(インデックス投資)【ステップ4】さらなる余剰資金でiDeCoや小規模企業共済の検討
それぞれのステップについて、具体的なシミュレーションを交えて解説します。
ステップ1:投資利回りを圧倒する「役員報酬の最適化」
資産形成の第一歩は、新NISAの口座を開設することではなく、「会社の利益をいくら役員報酬として個人に移すか」のバランスを極めることです。
日本の税制は、個人の所得が高くなるほど税率が上がる「累進課税」です。さらに、恐ろしい勢いで引き上げられているのが「社会保険料」です。
【事例】年商1億円・役員報酬1,800万円の社長の場合
もし、役員報酬を1,800万円から「最適値(例えば1,200万円+事前確定届出給与の活用など)」に見直したとします。
| 項目 | 対策前 | 対策後(最適化) | 差額(社長の手残り増) |
| 所得税・住民税 | 約350万円 | 約180万円 | +170万円 |
| 社会保険料(個人負担分) | 約130万円 | 約90万円 | +40万円 |
| 個人の手残り額 | 約1,320万円 | 約930万円 | ※法人のキャッシュにプール |
個人の税金と社会保険料を抑えることで、会社と個人を合わせたトータルの手残りは、年間で100万円〜200万円規模で変わるケースがザラにあります。
税理士からのワンポイントアドバイス
新NISAで年間360万円(投資枠の上限)を投資し、年利5%で運用できたとしても、得られる利益は年間「18万円」程度です(しかも非課税になるだけ)。
一方、役員報酬と社会保険料の最適化を行えば、リスクゼロで年間100万円以上のキャッシュが確実に浮きます。 どちらがビジネスとして「投資対効果」が高いかは、経営者であるあなたなら分かるはずです。
ステップ2:法人のキャッシュを守る「経営セーフティ共済」の活用
個人でお金を貯める前に、まずは「法人の税金」をコントロールしながら、会社に強固なキャッシュの盾を作りましょう。ここで役立つのが「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」です。
「小規模企業共済も有名では?」と思われるかもしれませんが、小規模企業共済は「個人」の所得控除になる反面、一度加入すると原則として引退するまで資金が自由に動かせない(流動性が極めて低い)という経営者にとって致命的なデメリットがあります。
その点、経営セーフティ共済は「法人」にとって非常に使い勝手が良い制度です。
経営セーフティ共済が経営者に好まれる理由
- 全額損金算入
年間最大240万円(累計800万円)まで、支払った全額を法人の経費(損金)にできる。 - 40ヶ月以上で返還率100%
3年4ヶ月以上掛け金を支払えば、解約時に元本が100%戻ってくる。 - 流動性の高さ
会社の資金繰りが悪化した際、解約して即座に現金を会社に戻せる。また、無担保・無保証人で解約手当金の範囲内の貸付(一時貸付金)を受けられる。
解約時には「雑収入」として法人税の課税対象になりますが、赤字の補填や、社長の退職金、大きな設備投資のタイミングに合わせることで、法人税を実質的に繰り延べ(コントロール)することが可能です。
ステップ3:ここでようやく「新NISA」の出番
ステップ1とステップ2をクリアし、会社にも個人にも「絶対に当面使うことのない本当の余剰資金」ができて初めて、新NISAの出番です。
では、経営者は新NISAで何を買えばいいのでしょうか?答えは非常にシンプルです。
「全世界株式(オルカン)」または「S&P500」に連動するインデックスファンドを、毎月淡々と自動積立する。これだけです。
経営者が投資に「脳のメモリ」を使ってはいけない
社長の本当の仕事は、本業の売上を伸ばし、利益を上げることです。毎日株価のチャートをチェックしたり、個別株の業績を分析したりする時間に脳のメモリを割くのは、経営者として機会損失でしかありません。
- 投資の手間は「ゼロ」にする(自動積立設定のみ)。
- 本業に集中し、会社の利益を10%伸ばす方が、投資で数パーセントの利回りを狙うより遥かに簡単でリターンも大きいです。
ステップ4:さらに余力があれば「iDeCo」や「小規模企業共済」を検討
新NISAの枠も使い切り、それでもなお個人の手元に長期の余剰資金がある場合は、「iDeCo」や「小規模企業共済」の活用を視野に入れます。これらは掛け金の全額が個人の所得控除になるため、高い所得税率が適用されている社長にとって強力な節税メリットをもたらします。
ただし、原則として60歳や引退時まで資金を一切引き出せないという「流動性の低さ(資金のロック)」という大きなデメリットを伴います。そのため、これらはあくまで「途中で絶対に引き出す必要がない、完全に独立した老後資金」として、余力の範囲内で計画的に組み合わせるのが賢明な判断と言えます。
実務上の注意点:資産形成を始める前のチェックリスト
経営者が資産形成を実行する際は、以下の税務・財務上の注意点を必ず押さえてください。
- 役員報酬の変更時期
役員報酬は原則として「期首から3ヶ月以内」にしか変更できません。思いつきで期中に変更すると、税務調査で経費(損金)として認められなくなるリスクがあります。 - 経営セーフティ共済の出口戦略
解約手当金が戻ってくる期は、事前の利益予測をしっかりと立て、退職金などの「大きな経費」と同額になるようにコントロールしなければ、単に法人税の後回しにしかなりません。 - 生活防衛資金の確保
会社に何かあった時、社長の個人資産から会社へ資金繰りの補填(役員借入金)を行うケースは多々あります。個人マネーもすべて投資に回すのではなく、数ヶ月分の生活費+αは現預金で残す必要があります。
まとめ:社長の資産形成は「出口」から逆算せよ
ネットやSNSに溢れている投資情報の9割以上は、財務コントロール権を持たない「サラリーマン向け」に発信されています。それを真に受けて、経営者が新NISAの口座開設に真っ先に走るのは順序が逆です。
経営者の資産形成の本質は、「法人と個人の財布を合算し、トータルの税金・社会保険料をいかにミニマムにして、次の成長投資への原資を作るか」にあります。
まずは「役員報酬」の再シミュレーションを行い、確実な手残りを生み出すことから始めましょう。あなたの会社において、今の役員報酬の設定が本当に最適なのか、まだ削減できる税金や社会保険料はないか。新NISAの銘柄を選ぶ前に、一度当事務所の財務シミュレーションで「隠れたキャッシュ」を見つけてみませんか?


